OGK技研(株) 専務取締役:木村泰治さん インタビュー
どうして自転車メーカーではない、『OGK/オージーケー技研株式会社』が『ふたごじてんしゃ』の開発・製品化に挑戦できたのでしょうか。
専務取締役である木村泰治さんにお話をうかがいました。
必要とする人たちのためのものづくりを
自転車メーカーではないからこそできる挑戦
Q : どうして自転車メーカーではないのに自転車、その中でも日本初となる『ふたごじてんしゃ』の開発・製品化に挑戦したのですか?
中原さんを通して、『ふたごじてんしゃ』を必要としている人たちがいることを知りました。弊社が存続できているのは、カゴや幼児用座席などをたくさんの方々にお使いいただいているおかげ。その恩返しとして、必要とする人たちのためのものづくりに取り組みたいと思ったんです。
「自転車メーカーではないのに自転車開発」と思われるかもしれませんが、自転車部品メーカーとして「よりよいものを」「もっと使いやすいものを」と突き詰めていく先に、常に自転車を見据えてきました。自転車部品やチャイルドシート単体を考えていても仕方ない。自転車そのものも一緒に変えていかないと、よりよいものにはならないと考えていたからです。外部講師を招いて自転車の構造や設計等の勉強会を定期的に開催したり、自転車メーカーと協力してチャイルドシートを開発する時は周辺の設計について提案したりすることもありました。
そんな機運が高まる中、中原さんからふたごじてんしゃのお話。しかし、すぐには「お受けします」と返答ができなかったんです。
Q : 「すぐには返答できなかった」理由は?
検討事項として「確実に開発・製品化できる保証がないので迷惑をかけてしまうのではないか」「自転車メーカーとの関係性から自転車本体をつくるのはどうなのか」という2点がありました。
しかしながら、中原さんにこれまでのお話をうかがっていると、恐らく、自転車メーカーの場合は業界の常識やこれまでの経験があるがゆえに、ふたごじてんしゃの開発に着手するのは難しいのではないか。それならば、自転車メーカーではない素人の弊社が率先して取り組むことで、この自転車の必要性を知ってもらい、変な話なんですが、協力していただける自転車メーカーが現れるのではないかと考えるようになりました。
前例や規格、基準に捉われず本当に必要なものを
Q : 前例や規格、基準がない3輪自転車。日本でも、社内でも、はじめての挑戦です。想いや志しはあっても、不安も大きかったのではないでしょうか?
自転車の開発・製品化は初挑戦のため、技術的な課題はもちろんありました。でも、自転車の設計経験があるベテラン設計者がいたので、「100%不可能ではない」と。むしろ、ハードルが高いからこそ、ものづくりメーカーとして挑戦する価値があると思ったんです。
弊社の創業者は技術者で「いいものをつくれば、会社は成り立っていくんだ」と、ものづくりを中心に考えてきました。その精神が創業から約70年経った今も浸透しています。お客様の意見もそうですし、我々も想像力を働かせて「こんな機能があったらどうだろう」と考えて、本当に必要だと思ったらつくってきました。
Q : 安全性が一番気になるところです。安全性を確保するために、どのような試験体制や環境を整えていますか?
安全で安心できるものを提供することは、ものづくりメーカーとして当たり前です。一般社団法人自転車協会に所属しているので、その試験機関を利用するのはもちろん、独自の試験として最大積載重量50kgまでのところにそれ以上の重量のものを載せたり、チャイルドシートに大人が乗って走行したりなど、いろんな可能性を想定して試験します。
これまでも、ヘッドレスト付きのチャイルドシートを開発した時はSG基準で定められている範囲内ではなく、それ以上に安全なものをつくろうと、素材や安全性を研究し、試験方法についても編み出してきました。
本当に必要なものを、前例や規格、基準のない中で常に試行錯誤しながら、ものづくりしてきた経験を『ふたごじてんしゃ』開発にも応用しています。
社外も巻き込んでのプロジェクトに進展
Q : 『ふたごじてんしゃ』開発チームはどのような人たちで構成されているのですか?
デザイナーと設計者の2名を中心に、安全確認や試験等を担当する品質保証・管理者などで構成しています。
デザイナーは自転車初挑戦です。チャイルドシート用ブランケットのほか、さまざまな自転車部品やチャイルドシートのデザイン・設計を手掛けてきました。自転車メーカーと一緒に開発に取り組んだ経験があり、メーカーの要望や要求レベルが高くても、粘り強く、前向きに仕事をするので信頼しています。経験の部分では自転車の設計に長年携わってきたベテラン設計者がフォローするので、2人のコンビネーションは抜群です。
開発チームだけに限らず、試乗していたら、自然と他の社員も集まってきて、「ここはもっと改善すべきでは?」「ここはこうするといいのでは?」などたくさんの意見が出てきます。現在では、社外のさまざまな方々からも指摘や意見、アドバイスをもらえているんです。
Q : 当初の理想通り、自社だけではなく、社外ともつながりながら『ふたごじてんしゃ』開発プロジェクトは進んでいるのですね。
協力関係のある自転車メーカーの設計者や弊社で実施している自転車の勉強会の講師をはじめ、中原さんのつながりでオフ会や幼稚園等で試乗会を実施するなど、一般の方々の率直な意見や感想を得る機会にも恵まれています。
中原さんが想いをもって取り組み、試作機をすでにつくっていたからこそ、弊社も取り組むことができました。『ふたごじてんしゃ』開発は弊社だけではなく、必要とする人たちのための広がりのあるプロジェクトなんです。
ライター 小森 利絵 さん | |
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